2025年5月13日から5月14日にかけてサンフランシスコで開催されたAIエージェント開発のテックイベント「LangChain Interrupt」。Day 2の幕開けは、LangChainのCEOであるHarrison Chase氏によるプロダクトキーノートでした。
Generative Agents Tech Blogではこれから複数回に分けて、イベントでのスピーチの模様をお届けします。
はじめに


Harrison Chase氏は、LangChainのマスコットキャラクターであるオウムが宇宙を目指すユーモラスなAI生成ビデオと共に登壇。

「我々がこれをするのは、それが容易だからというわけではありません。むしろ、当初は『これなら容易だろう』と我々が考えてしまったからなのです。目指すのは、かつて誰も、いかなるオウムも、足を踏み入れたことのない未知の領域です。」
(We do this not because it is easy, but because we thought it was easy where no parrot has gone before.)
という言葉で会場を沸かせ、初の開催となる本イベントへの期待と参加者への感謝を述べました。
※ ジョン・F・ケネディの演説「我々は月へ行くことを選ぶ。それが容易だからではなく、困難だからだ ("We choose to go to the Moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard.")」と、スタートレックのフレーズ「人類未踏の宇宙へ ("To boldly go where no man has gone before!")」を組み合わせたフレーズでした。
LangChainの誕生と進化:プロトタイプから本番環境への壁
キーノートは、LangChainがオープンソースプロジェクトとして始まった2年余り前、ChatGPTローンチの1ヶ月前の状況から振り返りました。当初は、AIを使って何かを構築する人々が「驚くべき『ワオ!』体験をもたらすプロトタイプを迅速に構築する手助け」をすることがLangChainの役割だったとHarrison氏は語ります。
しかし、プロトタイプから本番環境へ移行する際には多くの困難が伴います。
「何かを動かすのは簡単です。それがLLMの魔法です。強力で素晴らしい。しかし、それを実際のビジネスアプリケーションで実際に成果を上げるほど信頼性の高いものにするのは難しいのです」
(It's easy to get something working. That's the magic of these llms. They're powerful and amazing, but it's hard to get that to something that's reliable enough to actually move the lever in real business applications.)
このギャップこそが、LangChainを単なるオープンソースプロジェクトから「企業」へと発展させる原動力となりました。
LangChainのミッションは「インテリジェントエージェントをユビキタスなものにすること (Make intelligent agents ubiquitous)」。LLMの能力を最大限に活用するためには、その周りに多くのツールが必要であるという考えに基づいています。
エージェント構築の要素と「エージェントエンジニア」

Harrison氏は、エージェントを構築するための核となる要素として、プロンプティング、エンジニアリング、プロダクトセンス・プロダクトスキル、そして機械学習(特にEvals)の4つを挙げました。これらのスキル全てを組み合わせた存在として、LangChainは「エージェントエンジニア (Agent Engineer)」という新しいプロファイルを提唱しています。LangChainのミッションは、エージェントエンジニアをサポートすることにあります。
将来のエージェント像:現在の3つの信念
Harrison氏は、現在のエージェント構築に関する3つの信念を共有しました。
1. エージェントは多様なモデルに依存する (Agents will rely on many different models)


市場には多種多様なモデルが登場し、それぞれに長所と短所があります。開発者はエージェントの特定の時点で最適なモデルを選択できるようになる必要があり、LangChainはこのモデル選択の自由度を提供することに注力しています。事実、Python版のLangChainのダウンロード数は、OpenAI SDKを上回る勢いを見せているとのことです。
2. 信頼性の高いエージェントは適切なコンテキストから始まる (Reliable agents start with the right context)
LLMへの入力となるプロンプトの構築、特にそこに何を含めるかを正確に制御することが極めて重要です。このコンテキストエンジニアリングにおける制御と柔軟性を提供するために、LangChainはエージェントオーケストレーションをLangGraphに移行しています。LangGraphはローレベルで自由度の高いフレームワークであり、ライブラリに隠蔽されたプロンプトや認知アーキテクチャなしに、開発者が望むエージェントのフローを作成できます。ストリーミング、Human-in-the-Loopのサポート、短期・長期記憶などの機能も、ローレベルのプリミティブとして提供されます。
3. エージェント構築はチームスポーツである (Building agents is a team sport)
エージェント構築には多様なスキルセットが必要であり、チームでの協力が不可欠です。LangSmithは、オブザーバビリティ、Evals(評価)、プロンプトエンジニアリングのためのプラットフォームとして、異なるバックグラウンドを持つ人々が協力してエージェントを構築する場を提供します。トレーシングによるエージェント内部の可視化、データセット構築とEvals実行、プロンプトハブやプロンプトプレイグラウンドなどが統合されています。

Harrison氏は「エージェントは既にここにいる (Agents are here)」と強調。2025年こそ多くのエージェントが実際にオンラインになり始める年だと述べ、LangSmithのトレーシング流入量が今年初めから急増しているデータをその証左として示しました。
将来のエージェント像:未来への3つの信念と新発表
さらに、Harrison氏は未来のエージェント像に関する3つの信念と、それに対応するLangChainの新たな取り組みを発表しました。
1. AIオブザーバビリティは従来のものとは異なる (AI observability is different than traditional observability)
エージェントが扱うデータは大規模かつ非構造化データ、しばしばマルチモーダルであり、従来のオブザーバビリティとは異なります。また、対象ユーザーもSREではなくエージェントエンジニアです。
LangSmithの新機能
- エージェントが使用しているツールに関するインサイト(実行回数、レイテンシ、エラーの追跡)
- Trajectory(軌跡)オブザーバビリティ(エージェントがどのパスをたどっているか、関連するレイテンシとエラーの確認)
2. 誰もがエージェントビルダーになる (Everyone will be an agent builder)
様々なバックグラウンドを持つ人々がエージェントを構築できるようにすることが目標です。
発表されたツール群
- LangGraph Pre-built: シングルエージェント、エージェントスウォーム、スーパーバイザーエージェントなど、一般的なエージェントアーキテクチャのテンプレート。
- LangGraph Studio v2: デスクトップアプリを廃止し、完全にWebベースに。スタジオ内でのLLMコール確認、データセット構築、プロンプト変更、LangSmithからの本番トレースのローカルプルダウンとホットリロードによる修正が可能に(本番トレースを元にLangGraph Studioで再現実行することが可能に)。
- Open Agent Platform (オープンソース): LangGraph Platformを基盤とし、エージェントテンプレートを使用してノーコードでエージェントを構築できるプラットフォーム。ツールサーバー (MCP使用)、RAG as a Service、エージェントレジストリを搭載。
3. エージェントのデプロイメントが次のハードル (Deployment of agents is the next hurdle)
エージェントは次の特性を持つために、どのようにデプロイメントするかが問題になります。
- 実行が長時間に渡ることがある(数分〜数時間、もしくはそれ以上)
- 途中で処理がバーストする可能性がある
- 出力結果が不安定である(Human-in-the-Loopの必要性)
- ステートフルである(過去のステートを引き継ぎながら動作する)
新発表:LangGraph Platform GA (一般提供開始)
この問題を解決するのがLangGraph Platformです。これまではβバージョンで公開されていましたが、本日(5/14)からGAになりました。

- ストリーミング、Human-in-the-Loop、メモリなど30のAPIエンドポイントを提供。
- 水平スケーリングによるバースト性対応、長時間実行ワークロード向けの設計。
- デプロイしたエージェントをMCPサーバーとして公開可能。
- 組織内でのエージェント共有、再利用を促すコントロールプレーン。
- クラウドSaaS、ハイブリッド、完全セルフホストのデプロイメントオプション。
一般提供にあわせてプライシングも公開されています。
まとめ
最後にHarrison氏は、プレゼンティングスポンサーであるCisco Customer Experienceをはじめとするスポンサー企業、そして今回の講演者たちへの感謝を述べました。キーノート全体を通して、LangChainがAIエージェント開発の最前線で課題解決に取り組み、開発者コミュニティと共に未来を切り拓こうとしている強い意志が感じられました。
新しく発表されたLangGraph Pre-built, LangGraph Studio v2, Open Agent Platform, そしてGAとなったLangGraph Platformは、エージェント開発の敷居を下げ、より多くの人々が強力なAIエージェントを構築し、本番環境で活用できるようになることを目指しています。
Generative Agentsはエージェントエンジニアを募集しています!
Generative AgentsではHarrison氏が定義した「エージェントエンジニア」を募集しています。LangChain/LangGraphを使ったエージェント開発に、共に取り組んでいきましょう。ご関心のある方は、ぜひ以下の問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。